国際比較教育学

比較教育学は、外国研究にとどまらず、政策にインパクトを与えることを射程に置くことが重要であり、その意味で、政策研究の一環として捉えられます。  比較研究には、異なる時代の制度や機能などを比べる時系列比較のほか、同時代の異なる制度や機能の比較があります。私がこれまでに取り組んできた国際比較研究のひとつは、14カ国の教育システムに関する同時代の比較調査でした。海外のシステム研究や実践研究を通して最終的には日本の学校づくりや教育改革に役立つ研究を目指したのです。  ハンブルグ大学名誉教授のポスルスウェイト(Postlethwaite, T. N.)は比較教育のミッションは、他国の教育を通して自国の教育システムを見直すことであると指摘しています。比較教育学の醍醐味は、自己の相対化、すなわち通常は気づかない自分に、ともすれば絶対視してしまいがちな自己に、フレッシュな視座を与えてくれることだと思います。 以下に、「比較」という「装置」を活かした捉え直しの作業として、近年、私が取り組んできた研究活動の主なものをご紹介します。いずれも私たちのものの見方や考え方を国際比較を通して再認識するという作業でした。それは、自分を見つめていた内向きな〈まなざし〉が一旦、遠くの、広大な地平へと注がれ、大きな弧を描いて戻ってくるブーメランのような軌跡を描くイメージと重なります。

2012〜2015年度

「アジア諸国における教育の持続可能性とレジリエンスに関する総合的研究」(基盤研究B)

レジリエンス(しなやかな強さ)をキーワードに、アジア太平洋地域の5ヵ国(インドネシア・スリランカ・ニュージーランド・フィリピン・日本)の被災地でアンケート調査を実施し、学校のレジリエンスについて国際比較をしました。ESDという包括的な概念のもとに防災(Disaster Risk Reduction)は位置づけられており、本研究は持続可能な教育社会のあり方を明らかにすることを目的に実施されました。詳細は、次のURLおよび本ホームページ「科研費による研究」をご覧下さい。

  • 報告書 2016年3月刊行

2008〜2011年度

「東アジアにおける持続可能な開発のための教育の学校ネットワーク構築に向けた研究」(基盤研究B)

 欧州のバルト海沿岸諸国が実施するバルト海プロジェクトという国境を越えた恊働学習プロジェクトに感化を受け、アジアにおける国境を越えた問題解決学習の可能性と課題を明らかにするために実施された研究調査です。期せずして最終年度に東日本大震災が起き、急きょ6ヵ国(ロシア・中国・モンゴル・韓国・台湾・日本)で若者主導の放射線測定プロジェクトも開始し、日・英語の報告書にまとめました。

関連記事(豪州の教育関連雑誌) ‘Youth-Led, Cross-Border Collaborative Radiation Measurement Project: Results and Issues’. (Co-author: Naoko Yoshida). The Journal of the Victorian Association for Environmental Education. Victoria Association for Environmental Education (VAEE). EINGANA. Vol. 36, No. 3. (ed. by I. Sutherland). December 2013. pp. 7-9.

2003〜2006年度

「公設民営」型学校に関する国際比較研究:<公共性>の評価を中心に(基盤B海外学術調査)

近年、米国のチャータースクールなど、世界各地で新たな学校運営の「かたち」が出現した。設置主体は公的である一方で私的な運営主体の学校等、各国の現状と課題を国際比較を通して明らかにした。

  • 報告書:刊行済み(電子版なし)

2000〜2003年度

オルタナティブな教育実践と行政の在り方に関する国際比較研究(基盤B海外学術調査)

フリースクールなどのオルタナティブな教育実践が各国で注目され、公教育に影響を与える事例も見られるようになった。その一方で、その経営は厳しく、中には偏見や差別と闘う実践主体も少なくない。こうした実態を現地調査を通して調べ、オルタナティブ教育と社会の関係性を国際比較によって類型化した。

  • 中間報告書:刊行済み(電子版なし)
  • 最終報告書:刊行済み(電子版なし)